鍼灸師 中川 照久

神様

あなたにとっての「神様」は何ですか?

ある人にとっては信仰の対象だったり、ある人にとっては尊敬している人であったり、ある人にとっては自分が大切にしているモノや人だったりするかもしれません。

人類は、その歴史の中で実に様々な「神」を信仰してきました。

17世紀にヨーロッパで科学革命が起きるまでは、世界的にも宗教に携わる職業の人間が医療の分野まで深く浸食していた歴史があります。

日本においても、お坊さんや祈祷師、陰陽師などが治療に携わることもあり、宗教と医療には歴史的に非常に強い繋がりがあることが分かります。

宗教も医療も人の「生老病死」に深くかかわることから、現代の世界でもある意味で非常に近しい分野のように思えます。

私は特定の宗教を信仰しているわけではありませんが、私が考える鍼灸やカイロプラクティックなどの「治療哲学」における「神」のような概念について、ぜひ多くの方に知って頂きたいと思います。

 

治療哲学における「神」

「治療哲学」とは、治療の本質的な目的やあり方に関する治療者の考えのことです。

 

治療哲学における「神」とは、信仰の対象ではありません。

 

本質的な治療の目的とは、患者さんの疾患や症状を消失させることに留まらず、患者さんの心身をより良い状態にすることによって、その患者さんが真に望む自分に近づくことだと私は考えています。

 

治療という物語において、「主役」は何と言っても「患者さん」です。

 

その物語に登場する「神様」というのが、「主役が目指している自分」ということになります。

 

スピリチュアルな話にたびたび登場する「ハイヤー・セルフ(高次元の自分)」の概念と同じです。

 

カイロプラクティックには「ユニバーサル・インテリジェンス」という概念があります。

 

ユニバーサル・インテリジェンスは、全宇宙にある万物を支配している「偉大な何か(something great)」のことで、すなわち「神」であると言っても差し支えないと思われます。

 

カイロプラクティックでは、治療によってこのユニバーサル・インテリジェンスと患者さんとの疎通を図り、患者さんの身体が持てる最大のパフォーマンスを引き出すことを目的としています。

 

全員違う自分だけの「神」

今日の世界でメジャーとされる宗教は、一神教であることが多いです。

 

日本の国教である神道の神様は、「八百万(やおよろず)の神」と呼ばれるほど、たくさんの神様がいます。

 

まさに日本は、「神の国」と言えるでしょう。

 

神道は、いたるところに色んな神様がいるというアニミズム的な宗教なのです。

 

治療における神様は、患者さんの「ハイヤーセルフ」なのですから、もちろん人の数だけ神がいることになります。

 

そして、その神様は一人一人全く違うのだ、ということを知る必要があります。

 

「我成す事は、我のみぞ知る」

坂本龍馬

皆さん、ご存じの坂本龍馬の言葉です。

この言葉は、人生の真理を教えてくれます。

自分がなすべことは、自分にしかわからない場合が多いです。

しかし、私たちは「自分の中にある答え」をなかなか見つけることができません。

自分だけの答えをなかなか見つけることができないのは、誰かの考えを基にしてしまっているからです。

私たちの思考は、両親や仲の良いの友人、学校の教師の言葉や文化的な慣習などによって自分以外の人間の考え方が何重にも上書きされています。

 

他人の考えを知ることは非常に有意義なことですが、他人の価値観があまりに強く自分の価値観に浸食してしまうと、私たちは自分の心が本当は何を求めるのかが分からなくなってしまいます。

 

自分以外の価値観で物事を決めてしまうと、のちのち後悔することが多いです。

 

後悔はしなくとも、達成したのに何故か虚無感を強く感じてしまったりします。

 

どうしたら、自身の価値観を取り戻せるのでしょうか?

 

 

 

「言っている事ではなく、やっている事がその人の正体」

これは、作家の久田恵さんの言葉です。

 

この言葉も同様に真理に触れている気がします。

 

本当の自分の価値観を取り戻すためには、自身が歩んできた自分の歴史を振り返ることが有用です。

 

人間の言っていることや頭で考えていることは、おおよそ適当なものです。

 

しかし、実際に行動に移しているものは、自分の価値観を何らかの形で反映している場合がほとんどなのです。

 

例えば、「仕事が嫌いで仕事に行きたくない」と言ってはいても、実際に毎日出勤している場合は、その人にとっての「仕事」というのもが何らかの形で自身の価値観を反映させていることが多いです。

 

それは単に金銭を得るためかもしれませんし、仕事の全体像は嫌いでも、仕事の中のある側面に強く価値観を感じるものがあるのかもしれません。

 

いずれにしろ、自分の歩んできた人生のどこかに自分の大切に思うこと、本当にしたいことのヒントが隠れています。

 

ですので、自分が好きだったものや熱中したものをできるだけ多く思い出してみましょう。

 

難しい場合は、これからの生活の中で気になったものや興味を惹かれたものについて見落とさないようにしてみましょう。

 

無理して今の生活を変える必要はありません。

 

自分の好きなものを感じるアンテナを常に立てていれば、自分の神様の輪郭が見えてくるはずです。

 

なぜ己の心が分からないのか?

そうは言っても、自分自身に向き合いものごとを考えることほど難しいことはありません。

 

自身への感受性を邪魔するのは、様々な物質的なものです。

 

それは、経済的な問題だったり、人間関係の問題だったり、自分の身体的な問題だったりします。

 

人間の悩みは、突き詰めれば「お金」か「人間関係」に帰着すると言われていますが、この二つの根源的な原因は自身の身体にある場合も多いです。

 

そしてこの身体のパフォーマンスを最大化するために、われわれ治療家が存在するのです。

 

身体の問題がある程度軽減すると、本来の自分の気持ちに気づきやすくなります。

 

本来の自分に近づくことで、自分の神様の名前を思い出すのです。

 

あなたにとっての「神様」は、どのような神様ですか?

 

 

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