鍼灸師 中川 照久
2020/8/8更新
「マッサージ」好きな東洋人
皆さんは、「マッサージ」を受けたことはありますか?
定期的に通っていなくとも、温泉旅館や海外旅行先、お出かけ帰りに友人に連れられてなど、一度はマッサージを受けた経験があるのではないでしょうか。
マッサージが好きなのは、まぎれもなく東洋の文化であり、その文化がこの国にも色濃く根付いていると言えます。
いまや東洋文化の拡大とともに、西欧圏でもマッサージや指圧の文化が一般に普及して、日本人の治療家が世界各国で活躍するまでになりました。
欧米式の手技療法も東洋の医学や思想の影響を多分に受けています。
マッサージで症状が悪化する場合もある!
当院では、マッサージや按摩のような治療をあまり行いません。
鍼灸と併せて骨格矯正を目的とした手技療法を部分的に使用する場合はありますが、症状のある部位や広い範囲を揉みほぐしたりはしません。
マッサージは、使いどころを見極めれば非常に有効に働く場合もあるでしょう。
しかし、症状がある一定以上重い場合に対するマッサージは多くの場合、効果がないばかりか、逆に症状が悪化することもあります。
「肩こり」や「腰痛」にマッサージは有効?
肩こりや腰痛でマッサージを受ける方は多いかもしれません。
しかし、残念ながら慢性的な痛みに対してマッサージが一概に有効であるとは言い難いのです。
なぜなら、何をしてもなかなか治らない痛みの多くは、痛みや違和感を感じるポイントに病的な神経ができている可能性があるからです。
関節や筋肉の腱の部分には、もともとあまり血管や神経が存在しません。そのほうが都合が良いので、関節の軟骨や腱からは病的な血管を抑制する物質が分泌されているのです。
それらの物質は「血管新生抑制因子」と呼ばれ、「エンドスタチン」「コンドロモジュリン」「テノモジュリン」などがあります。
しかし、血管新生抑制因子は40歳過ぎから分泌が減少し、病的な血管とともに病的な神経も作られてしまい、慢性的な痛みや違和感に悩まされるようになってしまうのです。
肩こり、腰痛などもそうですが、四十肩や五十肩もやはりこの病的な血管と神経が関係している場合が多いようです。
この病的な神経による痛みの場合、痛みの個所やその周辺をマッサージしてしまうとその場では症状が改善したとしても、病的な血管の血流が良くなってしまい、しばらく経つとまた症状が出てきてしまいます。
そして、症状が再度出てきたときに、またマッサージを受けに行くというのを繰り返してしまうと、どんどん病的な神経は活性化してしまい、そのうちにマッサージが効かなくなってしまい、当院に来院されるという方も多くいらっしゃいます。
巷はたくさんの治療院で溢れかえっているのに、なかなか慢性症状に苦しむ方が救われないのは残念なことです。
そのような方々を治療するのが私の責務だと僭越ながら考えています。
しびれなどの症状にも注意が必要
しびれなどの神経症状がある方に対しても逆効果になる可能性が高いです。
神経症状は多くの場合、神経が骨・軟骨・靭帯・筋肉に圧迫されて起こるので、神経自体が刺激に過敏になっています。
ですので、神経症状を効果的に治療するためには、可能な限り刺激を加えずに、圧迫された神経を開放することが求められます。
このような場合は、治療ポイントを最小限に絞り込み、かつ、そのポイントに対して、いかにピンポイントで治療ができるかが明暗を分けます。
治療するべきポイントを一つに絞り込んだとしても、マッサージのような圧の刺激は、神経への圧迫を強めてしまうこともあるのです。
マッサージは優れた治療法ですが、身体の状態によっては、その限りではない場合もあるのです。
「危険なマッサージ店」もある
筋肉を治療するというのは、一般の方が想像するよりも身体への影響は甚大です。
むやみやたらに、筋肉を刺激してしまうと、身体へ逆にダメージを与えてしまう場合も少なくないのです。
マッサージ店の中には、身体の状態などをよく調べもせずに、全身を揉みほぐしてしまうような店舗も多いのが実情です。
たとえ、病院で特定の診断を受けていなくとも、目立った症状がなくともマッサージを受けるべきではない場合もあるのです。
整体院やマッサージ店が乱立する現在では、身体の状態を的確に評価できない施術者もたくさんいます。
治療家の実力は、治療そのものよりも、身体をどれだけ正確に評価、判断できるかにかかっていると言えます。
肩こりや腰痛などの症状も一度は、専門的な治療院を訪れたいものです。