鍼灸師 中川照久
最終更新日2021/2/20
睡眠
人間以外の動物も睡眠を取ります。
これは、食料を手に入れにくい夜間にできるだけ無駄な体力の消費を防ぐために、進化の過程で手に入れた生命現象です。
エネルギーの消費を防ぐために、体温を下げ、燃費が非常に悪い臓器である「筋肉」を弛緩させる状態をつくるのが「動物的な睡眠」です。
人間もこの「動物的な睡眠」をベースとしていますが、人には他の動物に比べて発達しすぎているものがあります。
人間の「脳」
それは「脳」です。
人間にとって、筋肉だけでなく、脳も燃費が悪い臓器の一つです。
ですから、睡眠によって脳を十分に休ませて、無駄なエネルギー消費を防ぐのです。
もちろん、働き者の脳に休息を与えるのも睡眠の大事な役割です。
脳が休んでいる間にしかできないメンテナンスもあります。
記憶の整理は、脳が休んでいるときにするのが効率的です。
人間の脳は、たくさんの記憶を保管する場所でもあります。
日々、生活の中で記憶はどんどん蓄積していきますから、毎晩整理しないと、脳の機能自体にも影響してしまいます。
また、物理的なメンテナンスも脳が休んでいる時にこそ、効率的に行うことが出来ます。
脳のメンテナンス
人間の脳は、お豆腐のように「保護液」に浸かった状態で頭蓋骨に収まっています。
この保護液は、頭に衝撃が加わっても脳が直接、骨にぶつかってしまうのを防いでくれています。
この保護液は「脳脊髄液」と呼ばれます。
脳脊髄液はおよそ150ccあり、一日4回、600ccほど入れ替わっています。
脳脊髄液は、覚醒時にも入れ替わりますが、やはり脳が休憩している状態の時にまとめてメンテナンスをする必要があるようです。
脳は、活動的な臓器なので、老廃物を脳脊髄液の中にたくさん出します。
この脳脊髄液の入れ替わりが滞ると、脳に多大なダメージを与えてしまうのです。
アルツハイマーになりやすい遺伝子を持った人の睡眠が制限されてしまうと「アミロイドβ」という物質が脳に蓄積し、認知症のリスクを高めてしまうという報告もあります。
働く日本人
睡眠が要性でないと思う方は中々いないと思いますが、それでも我々の国、日本は「世界一睡眠偏差値の低い国」と言われています。
睡眠の重要性は知っているが、どこかに眠らないで活動するのが美徳だという価値観が国民性の中に埋め込まれている、という指摘もあります。
日本では、弥生時代から稲作農業が中心で、長時間休みなく働くことで生産を上げていくことが良しとされていました。
社会への貢献という自己犠牲の精神が日本人には備わっているそうです。
眠る天才たち
しかし、世界的に活躍する一流のビジネスパーソンたちは、十分に睡眠をとることの重要性を理解し、実践しているようです。
アマゾンCEOのジェフ・べゾス、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ、Google会長のエリック・シュミットなどの世界的な仕事人たちは、みなロングスリーパーであることを公表しています。
巷には、短時間睡眠でも眠りの質を高めれば問題がないという非科学的な本やセミナーもありますが、ショートスリーパーは遺伝的なもので、その割合は200人に1人以下と言われています。
太陽の光
かつて、人間の体内時計のワンサイクルは25時間と言われていましたが、現在は「24.2時間」が定説のようです。
いずれにしても人間の体内時計は、24時間よりも少し長いので、どこかでリセットをかけないと、どんどん眠る時間が遅くなってしまい、昼夜逆転してしまう方もいるわけです。
このズレを解消するのに一役を買ってくれるのが、みなさんもご存じの太陽の光です。
スタンフォード大学の医学部で睡眠を研究されている西野精治 医師は、彼の著書の中で、
「朝に太陽の光を浴びるのは、数分程度でも良く、雨や曇りで太陽が見えなくとも、体内リズムや覚醒に影響を与える光の成分は、脳に届いている。」と語っています。
月曜日の憂鬱
また、同様に大切なのが、就寝時間です。
夜眠る時間をまちまちにしてしまうと、体のリズムが大きく乱れてしまうそうです。
いわゆる「サザエさん症候群」や「ブルーマンデー」が強く出てしまう人は、普段から寝不足で休日に大きく睡眠のリズムを変えてしまうことが影響しているそうです。
西野氏によれば、休日にたくさん寝たい方は、寝る時間は変えずに、起きる時間を遅らせたほうが睡眠のリズムを保てるようです。
同じ時間に寝たほうが良いことはわかっていても、中々寝付けない方は、ぜひご紹介するツボを押してみて下さい。
ご自身でも押しやすい、頭の付け根と手にあるツボです。
ツボを押すのは、眠る直前よりも、寝る1時間前くらいに行うのが理想的です。
入浴後で、血流が良い状態であれば、さらに理想的です。
1.安眠(あんみん)
一つ目のツボは「安眠」です。安直なネーミングですが、私の大好きなツボのひとつです。
ツボの取り方は、いくつか説がありますが、私は
「耳の後ろにある骨の出っ張り(側頭骨の乳様突起)から指一本分下」
に取ります。
両手の四本の指を側頭部に添えて、両手の親指で左右同時に指圧してください。
あまり強く押すと痛みを伴うため、痛気持ち良いくらいで充分です。
2.不眠(ふみん)
二つ目のツボは「不眠」という少しマイナーなポイントです。
場所は人差し指の親指側の側面を手首の方向にたどっていくと、手の第三関節を過ぎるとくぼみがあります。
このくぼみをもう片方の手で手の甲を包み、親指で指圧してください。
「合谷(ごうこく)」という有名なツボのすぐ先に位置しています。
押し方も合谷と同じです。
人は人生の約1/3近くを寝て過ごします。
この1/3の質によって、残りの2/3の質が変わっていきます。
睡眠に一番重要なのは、入眠であると考えています。
どうしても、寝つきが改善されない方は、ぜひご相談ください。